青森地方裁判所十和田支部 事件番号不詳 判決
主文
一 被告は原告らに対し、金三十五万円の支払いと引き換えに別紙第一目録記載の建物を引き波し、かつ同第二目録記載の宅地を明け渡し、昭和三十三年一月一日から明け渡しずみに至るまで一ケ年金千二百円の割合による金員を支払え。
二 原告らその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、原告らの主張
原告訴訟代理人は「被告は原告らに対し別紙第一目録記載の建物(以下本件建物という。)を収去して別紙第二目録記載の宅地(以下本件宅地という。)を明け渡し、昭和三十二年一月一日から明け渡しずみに至るまで一ケ年千二百円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因としてつぎのとおり述べた。
一、主たる請求原因
(一) 昭和二十七年十一月十八日当時本件宅地の所有者訴外江渡栄一と本件建物の所有者熊谷任太郎間の建物収去土地明渡請求事件につき、つぎのとおり裁判上の和解が成立した。
1 江渡栄一は熊谷任太郎に対し、本件宅地を昭和三十三年十二月三十一日まで賃貸する。
2 賃料は昭和二十八年一月一日から年額千二百円とし各年度一月末日限り前払いすること。
3 1の賃貸期間が到来した場合は、熊谷任太郎は何らの催告を要しないで本件建物を収去して本件宅地を明け渡すこと。
4 右賃貸借契約終了の場合、熊谷任太郎から買収請求があれば当事者は改めて協議すること。
(二) 原告らは昭和二十九年八月十二日右訴外江渡栄一から本件宅地を買い受け、右賃貸人の地位を承継し、被告もまた訴外熊谷任太郎から本件建物の所有権を承継取得して右賃借人の地位を承継し、昭和三十年から同三十二年に至るまで、原告らに対し年額千二百円の賃料を支払つてきた。
(三) ところが本件宅地の賃貸借契約は、(一)記載のとおり、昭和三十三年十二月三十一日を以て終了してから、被告は原告らに対して本件建物を収去して、本件宅地を明け渡すべき義務があるに拘らず履行しない。しかも、原告らは前記和解条項中建物の表示が抽象的であつた為右和解調書に基く強制執行をなしえないまま今日に至つている。
二、予備的請求原因
仮りに、原告らが本件宅地所有権を取得するに当り前記和解における賃貸人の地位を承継しなかつたとしても、被告は本件宅地上に本件建物を所有(昭和三十四年一月七日所有権保存登記)することにより何らの権原なく本件宅地を不法に占有するものである。
三、よつて右各請求原因に基き、原告らは被告に対し本件建物を収去して本件宅地の明け渡しを求めるとともに、昭和三十三年度における一年千二百円の賃料並びに昭和三十四年度から明け渡しずみに至るまで右同額の割合による損害金の支払を求める為本訴請求に及ぶ。
以上のとおり述べ、被告主張の賃借権を否認した。
第二、被告の主張
被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、つぎのとおり答弁した。
一、主たる請求原因第一項のうち、本件宅地の前主訴外江渡栄一と訴外熊谷任太郎間に建物の点を除き原告らの主張のごとき裁判上の和解が成立したことは認める。右和解の目的物とせられた建物は建坪十二坪二合五勺、二階十二坪二合五勺の建物であつて現存せず、本件建物ではない。
請求原因第二項につき、原告らはその主張のごとく、本件宅地の所有権を取得したが、前記和解に基く賃貸借契約上の権利を承継したものではない。又被告は本件建物を訴外熊谷任太郎から承継取得したものではない。
被告は、原告らが訴外江渡栄一から本件宅地を買い受けた直後原告らから、期間の定めなく、賃料一年千二百円、毎年一月中前払いの約で賃借したものである。
二、もし、以上の主張が認められないとすれば、被告は右和解条項に基き、原告らに対し本件建物を買い取るべきことを求め、協議したが、右協議が整わなかつたので昭和三十六年三月八日の本件口頭弁論期日において、借地法第四条により、金百万円を以て本件建物を買い取るべきことを求める。従つて、被告は右売買代金の支払いを受けるまでは本件宅地の明け渡しを拒むことができる。
よつて、原告らの本訴請求は失当である。
以上のとおり答弁した。
第三、証拠(省略)
理由
主たる請求原因について判断する。
原告らが、昭和二十九年八月十二日訴外江渡栄一から本件宅地を買い受け、同日所有権移転登記を経、共有すること、被告が現在本件宅地上に本件建物を所有することは、当事者間に争いなく、成立に争いのない甲第一、第五号証、証人江渡みつの証言及びこれにより真正に作成せられたことが認められる甲第六号証原告高橋照一本人尋問の結果によれば、本件宅地の前主訴外江渡栄一は本件宅地上に本件建物を建築中であつた訴外熊谷任太郎を被告として、当裁判所に建物収去土地明渡請求訴訟を提起していたが、昭和二十七年十一月十八日裁判上の和解が成立し、和解条項として(一)、訴外江渡栄一は訴外熊谷任太郎に対し、本件宅地を昭和三十三年十二月三十一日まで賃貸すること。(二)、賃料は昭和二十八年一月一日から年額千二百円とし、これを各年度一月末限り前払いすること。(三)、訴外熊谷任太郎は、賃貸期間終了後、昭和二十七年十二月十八日現在の建物を収去してその敷地を明け渡すこと。(四)、ただし、右の場合訴外熊谷任太郎から建物買取請求があつたときは、当事者は協議すること。を定めたこと、右和解条項にいう昭和二十七年十二月十八日現在の建物は、建築中の本件建物及び旧建物中残された台所部分を指すものであることが認められる。
しかして、原告らが本件和解後本件宅地の所有権を取得し、かつ、成立に争いのない乙第二号証によつて認められるごとく、原告高橋睦が本件宅地の賃料を受領していることにかんがみると、原告らは右和解における賃貸人の地位を承継したものと認めるのが相当である。
原告高橋睦本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は採用しない。
つぎに証人江渡みつの証言及び被告本人尋問の結果によれば、訴外熊谷任太郎は本件和解成立前の昭和二十七年十一月五日死亡していることが認められるので、和解調書の上では熊谷任太郎を当事者として表示しているけれども実質上は熊谷任太郎の妻たる被告及び他の共同相続人が共同して和解当事者となるべきものであり、本件建物の所有関係は後程昭和三十四年一月七日被告名義で本件建物の保存登記がなされていることに徴し、訴外熊谷任太郎死亡後被告が単独で所有権を承継取得し、従つて本件宅地賃借人の地位を承継したものと認めることができる。
したがつて、昭和二十九年八月十二日以降本件宅地の賃貸借関係は原告らと被告との間に存することになるが、右和解条項の中には賃貸期間を昭和三十三年十二月三十一日までとしているので一時使用の賃貸借か否かの点につき検討するに、証人江渡みつの証言並びに原告高橋照一本人尋問の結果によれば、本件宅地は訴外江渡みつが所有していた三十五・六年前同人が訴外熊谷任太郎に賃貸し、同訴外人は本件宅地上に建物を所有していたが右建物が朽廃したので、昭和二十七年頃これを取りこわして本件建物を建築しようとした為、当時本件宅地の所有者であつた訴外江渡栄一は当初の賃貸借期間も経過したことであるので訴外熊谷任太郎を相手方として工事禁止の仮処分を執行した上建物収去土地明渡の訴を提起し、右訴訟係属中本件和解が成立したものであることが認められる。
右事情に徴すると、本件和解に基く賃貸借契約は、本件建物の新築中になされたものであるが一時使用の賃貸借と認めるのが相当である。
よつて昭和三十三年十二月三十一日経過後は、被告の本件宅地賃借権は消滅したものということができる。
そこで、被告が予備的に主張する本件建物買取請求権行使につき判断する。
本件宅地の賃貸借契約は一時使用の為に締結せられたものであるから一般に一時使用の賃貸借契約については、賃借人は借地法第四条の更新請求権及び地上物件買取請求権を有しないものということができるが、本件につき和解条項をみるに、賃貸借契約の内容として、賃借人から建物買取請求があつた時は当事者は協議すると定められているから被告の為に当時被告が新築中であつた本件建物に対する投下資本を回収しうるよう一時賃貸借とはいえ借地法第四条の趣旨を汲んで特約されたものと認められる。しかして、右条項は単に買取請求があつた場合賃貸人に協議に応ずべき義務を負担させただけでは意味のない条項となるから協義が整わない場合には被告に借地法第四条に基く効果を賦与したものと解するのが相当である。
被告が、昭和三十六年三月八日本訴の第四回口頭弁論期日において本件建物につき買取請求権を行使したことは記録上明らかであるから、同日時価を以て本件建物の売買がなされたものと認めることができる。しかして右時価は、当裁判所の検証、鑑定の結果を総合斟酌して金三十五万円と認めるのが相当である。(被告本人尋問の結果によれば本件建物には訴外村越市郎の為債権額三十五万円、弁済期昭和三十五年一月五日利息年一割の約で抵当権が設定せられ未だ弁済せられていない上被告は資力に乏しいことが認められる。この点は本件建物の時価から債権額全部といわないまでも一部控除すべき要因となるけれども、他方右鑑定において本件建物の場所的利益の評価が十分でない点を考慮すると、鑑定結果たる時価を左右するに足りないと認めた。)
そうすると、被告は本訴において右三十五万円の売買代金の支払いを受けるまで本件建物の引き渡しを拒むことができる。
そこで、本訴は本件建物の買取請求がなされた場合、本件建物の引渡しと本件宅地の明け渡しを求め、買取請求後の不当利得の償還を求める請求を含むものと解せられるところ、
右判断に基き、被告は原告から三十五万円の支払いを受けるのと引き換えに本件建物の引き渡し並びに本件宅地の明け渡しをなすべき義務があり、かつ、昭和三十三年の賃料を支払つたものと認め難いので、右一年間の賃料金千二百円と昭和三十四年一月一日から買取請求のあつた昭和三十六年三月八日まで右同額の損害金以後右同額の不当利得金の支払いをなすべき義務あるものということができる。
よつて、本訴請求は右限度において正当としてこれを認容することとし、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十二条を適用して被告の負担とし、仮執行宣言の申立については未だ相当でないと認められるので、これを却下することとして主文のとおり判決する。
別紙 第一目録
三戸郡五戸町字新町一五番地弐
家屋番号 同町第弐弐弐番弐
一、木造柾葺弐階建店舗 一棟
建坪 十七坪五合
二階 十七坪五合
別紙 第二目録
三戸郡五戸町字新町一五ノ二
一、宅地 四拾弐坪